人間の闇が深く見える
始まりは肖像画
画家バジルのモデルとなったドリアン・グレイ。彼の肖像画に一目ぼれしたヘンリー卿は、若さ溢れるドリアンと、その美貌を絶賛します。”最高の芸術作品”と褒めちぎり、ドリアン自身も肖像画の美しさに見惚れています。しかし同時に老いていく自分に恐怖を感じ、「この肖像画が代わりに年を取ればいいのに。」と話していました。
そんなある日、ドリアンは舞台女優の卵シヴィルと恋に落ちます。婚約し仲睦まじい2人でしたが、ドリアンは舞台で華を感じないシヴィルに幻滅していきます。捨てられたシヴィルは自殺しますが、ドリアンは何食わぬ顔でオペラを見物。そんな姿にバジルは激怒し避難しますが、ふと気になり肖像画について尋ねます。この時すでにドリアンは知っていたのです。自分が年を取らなくなったこと、そして肖像画が年老いていることに。
主演ヘルムート・バーガーも、見出されたのはその美しさから
たまたまトスカーナ地方でロケをしていたルキノ・ビスコンティ監督は、撮影の様子を見に来ていたギャラリーの1人に目が止まります。寒い時期ということを理由にマフラーを彼に渡し、次の機会(会食)を設けたことがきっかけでこの男性、ヘルムート・バーガーが映画の世に出てきます。映画のような展開でドラマティック!
このヴィスコンティとヘルムートは両者共にバイセクシャルであり、2人の仲は公然の事でした。ヴィスコンティの死後にヘルムートは”ヴィスコンティの未亡人”と呼ばれる程でした。しかしヴィスコンティの死後出演する映画・ドラマは鳴かず飛ばず。”美しさ”を重んじ、芸術のような映画を作っていたヴィスコンティしかヘルムートの魅力は引き出せなかったようです。そんなヘルムートの美貌をマッシモ・ダラシーモ監督が再アピールしたのが今作”ドリアン・グレイ”でした。
怪奇作品
”歳をとりたくない”という願いが叶いますが、時間を持て余してしまうドリアン。周囲の成長や衰退についていけなくなり、時間を潰す方法として”快楽”に傾倒していきます。そこに羨ましさはなく、憐みという感情しかわきません。肖像画も年を刻む・老化するというよりかは、傷んでいくという描写になっており不安感・恐怖心を煽られました。
古くは1940年、新しくは2009年にも映画化された”ドリアングレイ”ですが、一番しっくりきたのはこの1970年ヘルムート版でした。原作に忠実で観やすい作品となっていますが、そこは1970年代の作品ですので裸に後光とかは許してあげてください。本作は中世貴族の退廃的な快楽主義を背景に年をとる・とらない、どちらも共に恐ろしいと物語っていました。
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