読めない結末が秀逸
小説を世界同時出版するために
世界的ベストセラー小説完結編「デダリュス 死にたくなかった男」が世界同時出版されるとニュースに流れます。出版権を獲得したのは前作2部を出版したアングストローム。12月から翻訳を始め、翌年3月には書店に並ぶと大宣伝を行っています。そして翻訳の間情報流出を避けるため、行動・身柄の拘束に同意した上で9人の翻訳家がフランスに集合しました。
翻訳の為に準備された場所は、作品の大ファンであるヴィレットという大富豪の邸宅。その屋敷には核戦争に備えて作った地下室があり、プールにボウリング場まで完備。そしてここで2か月間拘束されます。毎日20ページずつ渡される形で、翻訳机以外での原稿持ち運びは厳禁。さらにロシアの警備員が常に見張っています。そんな厳重な管理のなか、なんと今作の冒頭10ページがネット上に流出されます。アングストローム社オーナーのエリックは激怒。そして翻訳家への疑心から追及がはじまります。
元ネタからの発想が秀逸
元ネタとなったのは「ロバート・ラングドン」シリーズで実際にあった出来事。映画にもなったトム・ハンクス主演の「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズの原作です。大人気シリーズとなった第4作「インフェルノ」では前代未聞の翻訳プロジェクトが行われました。それが翻訳者を地下室に滞在させて翻訳をさせるという内容でした。
出版社は著者の同意を取り、翻訳者にも説明・同意を得ていたという事ですが、思い切ったことしてます。犯罪の臭いもする内容ですが、この当時世界中で海賊版・違法流出に関する問題が起こっていました。日本では特に漫画が大きな問題でしたね。そういう背景があり行ったプロジェクトですが、この「9人の翻訳家」は監禁翻訳と情報流出問題をとても上手くミステリー化させていました。素晴らしい発想力と想像力です。
謎と伏線だらけの複雑な内容に感服
あらすじでは省いていますが、時系列が前後しながら物語は展開していきます。冒頭から「デダリュス作者宅が火事」だったり、中盤では犯人が誰か明らかになっています。しかし終盤にかけてのドンデンガエシと伏線回収に思わず前のめり。サスペンス・ミステリー好きは見逃せない作品となっています。
オリジナル脚本で低予算の作品って何故これほど巧みになるのか。監禁状態での不安や焦りを見せながら、その実では「デダリュス」にまつわる人間関係も掘り下げられており、完璧な作品と評価しています。余韻も深く後味も良いのですが、ラストで好みが判れる所。オチが合えば満点です。と、偉そうに書いてますが作中に出て来る「コピー機は日本製が世界一」にニヤけた単純な日本人の感想です。
コメント も、文句以外で・・・