フィクションだけど多分ノンフィクション
両親を告訴する「僕を産んだ罪」で
レバノン・ベイルートのスラム街の少年が1人、手錠を課せられ刑務所内で歯科検診を受けています。医師は「乳歯がないので、12歳ぐらいだ。」と告げます。この少年ゼインは裁判所の法定で原告席に座り、裁判長に年齢を尋ねられると「わからないから、そっちに聞いて。」と被告席に座る両親に振ります。
裁判長から逮捕された理由を問われ、ゼインは「クソ野郎を刺したから。」と答えます。そう、ゼインは男を刺した罪で収監されており、この服役中に刑務所の中から裁判を起こしたのです。「何故、私たちが訴えられるの?」と困惑と怒りに満ちた両親に対し、ゼインは裁判長を見つめながら「僕を産んだ罪で。」と答えます。この言葉はスラムで厳しい環境に置かれたゼインの悲哀に満ちた”願い”なのでした。
観るのが辛い程リアル
本作はフィクションではありますが、ゼインを含め出演者のほとんどは役柄とほぼ同じ境遇にある素人が起用され、演技ではなく本心からの感情をさらけ出すという形で撮影されています。脚本の濃度も勿論ですが、この”本人起用的”なアイデアが実話と遜色のないリアル感を生み出しています。
観る側に痛みを与えてしまう本作は、ゼインの台詞に目を逸らしてしまいます。暴力・薬・タバコ・酒というバイオレンス描写ではなく、少年が話すだけのシーンを見ていられませんでした。これはフィクション作品と言い聞かせながらも、この不条理さはきっとノンフィクションな環境だと感じさせられました。
救いがない世界で救われないと知っている少年
昼間から酒を飲み働かない父親をよそ眼に、ゼインは兄妹を連れて働いていました。そこに法はなく、トラマドールという多好感副作用のある薬物を中毒者に売る事もしています。年の近い妹サハルも売られます。この後も希望のない世界で生きるゼインは神にも頼りません。”無責任に産むな”と痛烈な大人批判を行う少年を、目を逸らさずに受け止めれる大人は少ないのではないでしょうか。
”神様の望みは僕らがボロ雑巾でいること”
この台詞が出る頃には、胸が詰まり呼吸も浅くなっていました。これほど観るに苦しい作品も少ないのでは・・・。ゼインにとっては何もしない”神様”なんて大人の偶像でしかなかったのです。不条理で鬱と救いのない作品なのですが、それでも観た方がいい名作。高校教材とかにならないかな・・・
⇑ こちらも同じ環境の素人たちが多く出演
コメント も、文句以外で・・・