辞書制作に必要なのは執着心
出版社の”金食い虫”
出版社である玄武書房の営業部で働く馬締光也。彼は定年近い荒木に”辞書編集部”に引き抜かれます。この部署は周囲から”金食い虫”と噂され、利益にならない仕事と言われていました。荒木は以前から馬締を自分の後継者として目を付けており、定年前の辞書制作に併せて声をかけてきたのでした。
馬締は真面目なのですが上手く立ち回れず、対人性の悪さ故に”厄介者”扱いを受けていました。しかし彼は言語感覚に優れており、大学では言語学を専攻しています。更に言葉に対して執着する事も度々みられ、玄武書房で計画中の中型百科事典”大渡海”の編集に最適と判断されたのでした。そして馬締は本来の力を発揮し、編集にのめり込んでいきます。
小難しい思想は辞書編纂に向いていた
ちょとした事で考え込む馬締は、好意を持つ女性に誘われた時でさえ”天にも昇る気持ち”に関して、「昇る・上がるとはどう違うのか・・・」と考え込むという重症者。天にも上がる気持ち、とは言わないし雰囲気とも合いません。”この違いをどう分けて、どう伝えるのか”に拘り違いを探していきます。
しかし彼の根底は”日本語が好き”にありました。これほど熱中でき、しかもそれが仕事というならば正に理想的です。言葉を探す・考える、それだけの事に大きな喜び・ひらめき・悲しみ・落胆するのは、この時間を幸せと感じるからです。嫉妬してしまうぐらい幸せそうな馬締の姿に”辞書の存在理由”が見えてきます。
言葉には”説明書”が必要
本作は辞書編集を通じて言葉の大切さと、意味を知る事の重要さを教えてくれます。一言一言を丁寧に表現しようと言葉を紡ぐ様子は、それこそ”編んでいる”ように見えます。その真摯な態度に”ここまでする必要があるのか?”と思いましたが、言葉のすれ違いや違和感を減らすためには、この執着心が必要なのです。
近い未来”辞書”というのは過去の遺物となります。しかし”辞書という言葉”は永く残ります。”紙媒体の本”が減少していくだけで、その言葉や名前は引き継がれていくのです。印象的なのは「右という言葉を文章で説明できるかい」という質問。何を”右”とするのかを理解する・させるためにも辞書は必要です。こんな感じで、複雑ながらもちょっとノスタルジックな気分にさせる本作。思惑泣かされた1冊でした。
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