深々とした雰囲気が良
どこかで会っている?
6月の雨の日、秋月孝雄は学校の1限目をサボって新宿御苑に向かいます。そこにある屋根付きの休憩所にチョコレートを食べながら、ビールを飲んでいる女性が座っています。孝雄は気にせず普段通りにベンチに座り、ノートに靴のデザイン画を描き始めます。孝雄は靴職人になるという夢があったのです。
孝雄はこの女性について、どこかで見たことがある気がしています。孝雄を思い切って「どこかでお会いしましたっけ」と聞きますが、女性は「いいえ」と一言。気まずさ交じりの中、デザイン画に集中する事にします。そんな折、女性は孝雄の高校の校章が目に入ると「会ってるかも」と呟きます。そして「雷神の少し響みてさし曇り、雨も降らぬか君を留めぬ」と言い残して去っていきました。
万葉集「雷神の・・・」
この女性が言い残した「雷神の~」の意味は”雷が鳴り響いて雨でも降ればいいのに、そうすればあなたもここに居てくれるだろうに”という意味ですが、立ち去った側が言い残した言葉としては疑問でした。勿論孝雄に言った訳ではなく、「学校」と「天気」そして「現在の心情」が重なって出た和歌で、作品内で後述される女性が苦しんでいる背景にウルっと来ます。
孝雄も後日歌を返していますが、この2対の響きは美しくも儚いものでした。何かに迷い悩む2人は、この休憩所で会う事で癒されていきます。しかしこの休憩所に一緒に座る・会うのは”雨の日”という部分を強調したのが2つの歌になります。もう1対は本作で聞く方が心地よいと思いますので、お楽しみしておいてください。
昼間から公園でビールを飲む
真昼間に女性が独り、チョコレートをつまみにビールを飲む。その理由は過度のストレスで味覚障害が発症し、他の物の味がわからなくなったのです。そしてこの”休憩所”から抜け出せなくなりました。精神的な明日が来ない、そんな彼女に与えられた分岐点が孝雄という存在だったのです。雨に留まってしまうのか、雨から抜け出せるのか・・・
雨の使い方が巧みです。2人の関係性が進まない時は静かにシトシト。しかし感情が激しく高まる・ぶつかる時には雷鳴響く豪雨と、雨という背景でシーンの強調をしています。どの雨も印象的で綺麗に仕上げており、新海作品特有のタッチが良く表れていました。
(ちょいネタばれ)この女性に関しては「君の名は」でも登場(多分同一人物だと思うんだけど・・・)しており、本作に留まらず歩き出しているという後日談であると、前向きに受け取ってみました。(違うかも!!)
コメント も、文句以外で・・・