実話ベースって・・・世の中怖い
シリアから逃げ出した男
2011年のシリア、ラッカ出身のサム・アリは恋人アビールと共に列車に乗っていました。身分の違う2人は愛し合っていますが、アビールの家族には受け入れてもらえません。せめて列車内では、とサムはプロポーズをし「これは自由への革命だ!」と声を挙げ踊りました。しかしこの言葉が”国家反逆罪”とみなされ拘束。取り調べ兵士が親戚だったため逃がしてもらえましたが、シリア内にはおられずレバノンへ亡命しました。
サムはシリア難民として昼間は養鶏場で働き、夜は美術館などの展示会で招待客用の食事を食べて暮らしていました。ある日同じように展示場に紛れ込んでいましたが展示責任者のソラヤに追い出されようとします。その様子を見た芸術家ジェフリーはサムに近寄ります。そして”大金と自由”の引き換えに、背中にタトゥーを入れる事で”作品になる”という提案をします。受け入れたサムはこれで協定国を自由に行き来することができるのですが、それは”自由”とは少し違うものでした。
アートを背中に背負った運搬人
本作のモデルになったのはベルギーの芸術家ヴィム・デルボアが2006年に発表した「TIM」という作品。実際に背中をキャンパスにしていますが、実際に背中を売った男性ティム・シュタイナーは割とノリノリに受けたそうです。人間といえど背中は作品なので、大金を受け取る代わりに”展示室”に飾られる事になりますが、「僕はアートを背負った運搬人なんだ。」と話しており、こちらの条件もノリノリです。
”人間をキャンパス”にするというのは発想しても実行はなかなかできません。提案する方もですが、受ける方も中々のサイコパスなのでは・・・。この「TIM」は双方の利益が噛み合っていますが、映画「背中を売った男」は風刺的でメッセージ性の強い作品として完成されていました。
人は越えれないが物なら越えれる”国境”
サムはシリア難民という立場を利用され、搾取される側として観客者や人権運動員から捉えられます。「君を助けたい。」という人権運動員の言葉は全く胸に響きませんでした。何故ならサムに住む場所を与え、そして国境を越えさせたのはヴィムという芸術家しかいなかったからです。綺麗な言葉だけでは誰も救えないというメッセージは伝わってます。
人権を守りたい運動員は今までサムを無視していました。人間である内は国内から出れず、商品になった途端展示品としてですが世界を周れます。ヴィムの行った行動は世間から”人身売買”とも捉えられます。そういった悪意を臭わせる本作ですが、強烈な皮肉と風刺は痛快。人間社会の闇に光を当てたヒューマンドラマ「皮膚を売った男」は見始めたら必ず最後まで視聴して下さい。
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