山田悠介作品の中でも更に秀逸
優秀な遺伝子を購入
”優秀な人間を産ませる”という趣旨の元、優れた男性の精子をオークションで販売しているジーニアスバンク。優秀な遺伝子を引き継げば”天才”もしくは”秀才”が産まれると考えられており、このジーニアスバンクから特に優秀な遺伝子を競り落とした”厚子”は2人の子供を授かりました。
長男は天才数学者の遺伝子を継ぎ、20歳で有名大学の教授になります。長男の成功によって更に期待された次男は”麒麟”と名付けられます。しかし期待された才能には恵まれず”犬小屋”に住まわせ、冷たくした上に”失敗作”を集めた学校に幽閉されます。そんな環境下でも心の輝きを失わない麒麟の”才能”とは・・・。
“優生学”がテーマ
優秀な遺伝子を世代ごとに重ねていく事で人類の改良と進歩を促していくという思想。あくまで一つの思想とされていましたが、ナチスによって優生学と殺人を混在した政策が行われた事で大きな倫理的問題が露呈しました。このことをきっかけに第2次世界大戦以降”優生学”全てが禁忌とされています。
人間を”優秀”と”劣悪”などと差別化しており、倫理的な問題が大きい思想です。しかし歴史を覗いてみると”人間の品種改良政策”は世界中で実行されていました。現在ではあくまで”親の自発的な選択である限り支持される思想”として存在しています。この重いテーマを山田悠介視点が深く掘り下げてきたのが本作”キリン”です。
才能は遺伝子?環境?それとも・・・
麒麟は幽閉された学校で厚子の求めたモノと違う才能を発揮していきます。そしてその才能は恐らく厚子の望んだモノより輝いています。そして優秀な”兄”の遺伝子についても大きな秘密が隠されており、ラストエピソードでは”唸るほど考えさせられる”オチを披露されます。
親の持つ才能を必ず引き継ぐわけではないかな・・・天才とは努力あってこそ創られると信じている僕としては、厚子の才能至上主義には嫌悪感すら覚えました。そんな厚子の子供”麒麟”が良い子すぎます。どんな才能よりこの麒麟の優しさと思想が宝物です。読後は自身の子供にどんな才能が欲しいのか、また天才的な才能が本当に必要なのか・・・なんだか悩まされてしまいました。
コメント も、文句以外で・・・