嗚咽にまみれて泣きました・・・
ナナとサトル
吾輩は猫である。名前はまだない。夏目漱石の作品に登場する猫同様、現在名前のないこの野良猫も自由気ままに野良生活をしていました。しかしそんな折、突如車に轢かれてしまい動けなくなります。そして助けてくれたサトルがそのまま野良猫を引き取ります。尻尾が数字の7に似ているところからナナと名付けられ、名前をもった猫は不自由ない暮らしをしていました。
それから5年、お互いに良いルームメイトとして生活していました。しかしある事情によってナナを飼えなくなったサトルはナナを引き取ってくれそうな人を訪ねることにします。当然、ナナを連れての旅になります。
サトル「ナナ、ごめんな。お前を手放すつもりはなかったんだけど。」
ナナ「いいよいいよ、気にすんなよ。僕は道理の分かってる猫だよ。」
そうして1人と1匹は銀色のワゴンに乗り込むのでした。
旅猫アルバム
「猫」の気持ち
この旅猫リポートはナナの気持ちを擬人化しています。誰にも通じないのですが、ナナはサトルに話しかけますし人の言葉を理解しています。「ナナ」と名付けられる時には「いやだー---」と訴えますが、サトルに猫語は理解できないのでナナに決定。そんな自由で我が儘、強気で生意気なナナですが心優しく、悟を大事に思っていました。
ナナはサトルとの旅を、「さあ、このワゴンに乗って、君が次に僕を連れて行くのは誰のところだい?」と少し楽しんでいるように見せます。別れの旅ではありますが、暗くならずにいつも通りを貫くのはナナの思いやりでしょう。そして多分理解しているんです。サトルもナナも既に、お互いから離れる事が出来ない関係であることに。
「生き方」についてナナから学ぶ
明るく優しい人柄で誰からも愛されている主人公、サトルは幸せな家庭環境とはいえません。そして更にナナとの決別という不幸な出来事に見舞われます。そんな環境でもナナは毅然としており、「いいよいいよ」「そうだね」と悟といつもの会話をします。変化の中にある普通は悟に大きな安心感を与えていました。
ナナはサトルと過ごした5年間について、例え今回別れることになったとしても「サトルとの5年間を得ただけ」と話します。失う時間ではなく、今までに得た時間と捉えるナナに膝を砕かれ泣かされました。「前向き」という言葉では軽くなってしまう気がします。これはナナが大事に愛した時間と、その時間を受け取ったサトルの「幸せの形」を表現した重く深い言葉でした。有川作品は大好物ですが、これだけ「生き方」を考えさせられる作品はこの1本です。読む際にはバスタオル片手に構えておくことをお勧めします。
⇑ 「キケン」も有川作品で大好きな1本。一味違う感動を覚えます。
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